〔ディリクレ積分〕ディリクレ積分の種々の導出法
工学系の数学で頻出のディリクレ積分
の導出のうち, 有名なものを解析学(真っ向勝負)・複素解析(王道)・フーリエ変換(天下り)・ラプラス変換(チート)の4種類ピックアップした。
- (問題) ディリクレ積分
- (解答1) 微積分(フビニの定理)の利用
- (解答2) 複素解析(コーシーの積分定理)の利用
- (解答3) フーリエ解析(矩形波のフーリエ変換)の利用
- (解答4) ラプラス変換の利用
- 参考文献
(問題) ディリクレ積分
(問題) 次の等式を示せ。
(解答1) 微積分(フビニの定理)の利用
に注意して, を書き換えると,
ここで, 累次積分 が有限値に収束することを示す(これにより, フビニの定理から において積分の順序交換が許容される)。
より, は絶対収束するので, フビニの定理より累次積分の順序交換ができて,
を得る(補足1)…①。
以下, これの右辺第2項が, の極限でゼロに収束することを示す。
(補足2)
より, を得るので, ①より
を得る。□
(補足)
補足1.(指数関数)×(三角関数)の積分
同形出現など様々な求め方があるが, 最も手っ取り早いのは
の虚部をとることだろう。実際, この結果の虚部をとることで
を得る。
補足2. シュワルツの不等式
のようにベクトルの内積と見てやれば, シュワルツの不等式より
を得る。
(解答2) 複素解析(コーシーの積分定理)の利用
原点以外で正則な複素関数 を図のような原点を含まない周回積分路 で積分すると, その結果 は となる…①。これは, 「単純閉曲線で囲まれた領域内で複素関数が常に正則であるとき, その閉曲線に沿った複素関数の積分値はゼロになる」というコーシーの積分定理による。
一方, は
のように積分路ごとに分割できる。
[1] について
を変数変換により書き換えることで,
を得る。
[2] について
こちらの最終目標は のときに積分値がゼロに収束することを示すことである。以下それを示すが, このとき不等式評価がいささか厳しくなることに注意されたい(分子分母の次数の差が1のときと2以上のときでは, 要求される評価精度が変わってくる。後者の場合は というガバガバな評価でも良いが, 今回はそうは行かない)
積分路は であり, このとき だから,
(対称性より)
(補足3)
より, を得る。
[3] について
こちらは という非ゼロ有限値に収束する。これを示す。
積分路は であり, このとき だから,
よって,
を得る。…②
したがって, ①②より
を得る。□
(補足)
補足3. sin (x) の1次関数による不等式評価
の範囲において, が成立することを用いた。これは以下の図を見れば明らか。
(解答3) フーリエ解析(矩形波のフーリエ変換)の利用
天下り的ではあるが, 以下の矩形波 をフーリエ変換することにより, を得ることが出来る。
以下では, (曲がりなりにも数学の記事ということもあり)フーリエ変換 および逆フーリエ変換 を
(という実用性よりも対称性を意識したもの)として定義する。
さて, 既に与えた のフーリエ変換を行うことにより,
というsinc関数を得る。
逆フーリエ変換の定義 より
この最後の式において, 特に とすることにより, に注意して
を得るので, 偶奇性から
を得る。□
(解答4) ラプラス変換の利用
最後に, ラプラス変換 を用いたほぼチートのような導出を示す。
定積分 を の関数と見て とおく。 をラプラス変換すると, ラプラス変換の線形性より
ここで求めた を逆ラプラス変換することにより, に注意して
つまり
を得て, 特に として
を得る。□
参考文献
[1] 海老原 円, 太田雅人. 『詳解と演習 大学院入試問題 〈数学〉』. 数理工学社.
[2] 千葉 逸人. 『新装版 工学部で学ぶ数学』. プレアデス出版.
[3] 八木厚志, 森田浩. 『工学系の数学解析』. 大阪大学出版会.